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馬のことについていろいろと。

「ガラリ一変! 競馬の見方」 西内荘

 

 

ガラリ一変!競馬の見方

 

 

 治らないと言われていた病気やケガを治したら褒められますが、故障しないように正常な状態をキープしていても褒められることはない。しかしながら、後者のほうが比にならないほど難しく、また価値の高いことなのです。

「ガラリ一変! 競馬の見方」p177

 

 

 ヒヅメの弱かったディープインパクトに当時最先端の技術だった接着装蹄をほどこし、その競争生活を無事にまっとうさせたことで知られる、装蹄師の西内荘さんの著書。

 

 

 装蹄師の仕事の内容、海外の装蹄事情、1週間の仕事のながれ、馬のヒヅメの病気やケガの説明、といったことが書かれており、その端々から、装蹄師という仕事への誇りと、よりよい仕事をしようという熱意が伝わってくる。装蹄師だからこそ書ける、という内容が多く、その中には目からウロコの話も。

 

「馬のヒヅメの形を見れば、芝・ダート向き、あるいは道悪巧者か否かなどの適性を判断することができる」

 こういうことを語っている評論家や、似たようなことが書かれた文献を目にしたことはないでしょうか?

 残念ながら、それは無理だと思います。馬のヒヅメの形を見ただけでは適性を見極めることはできません。私は延べ30万頭以上、装蹄をしてきました。誰よりも多く馬のヒヅメを見てきたからこそ断言できます。

 芝向き、ダート向き、道悪の得手不得手に、ヒヅメの形は関係ないです。

p46

 

 マジかー。今までずっと「ベタ爪は道悪苦手、タチ爪は道悪得意」を信じてたよ……。

 

 

 また、西内さんが過去に装蹄してきた名馬たちの、ヒヅメや脚元に関わるエピソードもおもしろい。

 

  • ノースフライトは、脚の曲がっている馬の多かったトニービン産駒ながら馬体のバランスがすばらしく、”完璧なトニービン”だった。
  • ナリタハヤブサは、ヒヅメの脆さという弱点がなければ芝でも大活躍していた。
  • メジロマックイーンは、キャリアの中盤以降は副管骨(第4中手骨)が折れたまま走っていて、それが動いてしまうパンパンの良馬場では全能力を発揮できなかった。
  • シーザリオは脚元が弱く、あれだけの実績を残しても、”担当する装蹄師として一度も万全の状態で走らせてあげることができなかった”。
  • ディープインパクトは無駄な力を使わずとも馬場をしっかりつかんで走ることができ、装蹄している蹄鉄がまったく擦り減らなかった。「走る馬ほど蹄鉄は擦り減るもの」という常識を完全に覆し、「究極レベルに走る馬の蹄鉄は擦り減らない」と教えてくれた。

 

などなど。これらは装蹄師だからこそ書けるもので、通常とは違う視点での名馬のエピソード集としても価値の高い本となっている。

 

 

 装蹄師について知りたい人だけでなく、競馬ファン全般におススメ。