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馬のことについていろいろと。

「装蹄師 競走馬に夢を打つ」 柿元純司

 

装蹄師―競走馬に夢を打つ

 

 

 装蹄師の筆者が、装蹄師の生活、これまで装蹄をしてきた馬、馬の脚の故障を装蹄でどう予防・治療するのか、などについて語った本。

 

 

 装蹄師というのは騎手や調教師とは違ってなかなかクローズアップされることのない職業なだけに、長年競馬に親しんでいても、この本ではじめて知ったことも多かった。JRAには装蹄師がどのぐらいいてそれぞれ何頭ぐらいを担当しているのか、1頭の馬に装蹄をすることがどれだけ大変なのか、脚の故障を直したり防いだりするためにどんな装蹄の工夫をしているのか、名前を聞いたことのある活躍馬達がどんな脚元の問題と戦いながら走っていたのか、などなど。読めば競馬を今までとは違った角度からも見られるようになる、有意義な一冊だと思う。

 

 特に印象的なのは、調教師や厩務員や装蹄師が、馬を無事に走らせて満足のいく競走生活を送らせてあげるために日々どれほど情熱をかけて仕事をしているのか、が全編を通して伝わってくること。

 

  馬が入厩してくれば、なんとか競走馬になれるようにと頑張り、出走すれば勝負以前に、無事走れよと祈り、勝てばもちろん大喜びだが、着順もわからないほどだとなおのこと、脚は無事かとテレビ中継を食い入るように見る。

 競走中の故障は一番残酷なもので、自分の担当の馬でなくても胸が潰れる思いがする。こういったこともままある悲しいこと。馬が競馬という役目を無事終えて牧場に帰ったり、第二の生活へ巣立っていく姿を見聞きすることこそ、私たちをとても幸せな気持ちにしてくれることなのである。

 競馬にたずさわる一人一人の胸を開けば、無事是名馬なり、の言葉が詰まっているに違いない。

 

といった文章には、競馬を楽しませてもらっているファンの一人として、深く頭を垂れたくなった。

 

 

 発行が1994年と古いだけに「それはどうなんだろう」と筆者に反論したくなるような箇所もちょこちょこと見られるのだけれども、それを差し引いてもおもしろい本で、競馬をもっと深く知りたいという人にはお勧め。