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馬のことについていろいろと。

「消えた琉球競馬 幻の名馬「ヒコーキ」を追いかけて」梅崎晴光

 

消えた琉球競馬―幻の名馬「ヒコーキ」を追いかけて

 

 

 

 太平洋戦争後に途絶えてしまった、馬の速さではなく馬の足並みの綺麗さを競ったという「琉球競馬」。筆者は、沖縄各地の馬場跡を巡り、今はなき琉球競馬の痕跡を丹念に掘り起こしていく。2013年のJRA賞馬事文化賞受賞作。

 

 

 中盤まではひたすら地味な馬場跡巡りが続き、沖縄の言葉や地名も独特で覚えにくく、とにかく読みにくい。この本が読み物として優秀かというと、これは否だろう。

 

 しかし、この本が日本の馬事文化に対して果たした役割は、とてつもなく大きい。埋もれかけていた琉球競馬の痕跡を丹念に探り、琉球競馬を知る人達がかなりの高齢となっていく中でその証言をとり、琉球競馬を歴史の中に埋もれさせなかった。それだけでも、筆者には最大級の賛辞が送られてしかるべきである。

 

 

 また、琉球競馬の辿った歴史を知ることで沖縄の苦難の歴史も知ることができる、という点でも本書は有意義だ。

 

 各地の有力者による領土争い、琉球王朝の成立、薩摩藩琉球侵攻、日本政府による琉球併合、そして地獄のような太平洋戦争の沖縄戦へ。激動の沖縄史の中で、小さな在来馬達が美しさを競った平和な競馬は、改良された大型馬による速さを競う競馬へとその姿を変え、やがては戦争に飲み込まれて消えていってしまう。特に、太平洋戦争での沖縄の住民と馬達の被害の大きさは絶句するほどであり、競馬をしていられることがとれだけ幸せなことなのか、それをこれほどまでに教えてくれる本もそうはないだろう。

 

 

 幸いにして、今は琉球競馬を復活させようとする試みも進んでいるらしい。一度は絶えてしまったものを元の姿まで戻すのは並大抵のことではないだろう。けれども、足並みの美しさを競う平和な琉球競馬が再び沖縄で根付き、この先も末長く続いていってくれることを切に願うばかりである。